主力商品 スカイツリーにも採用されたエレベーターの滑車

世界にはばたくメイドイン山形
可能性を追求する
120年続く鋳物技術
有限会社渡辺鋳造所(山形市)
有限会社渡辺鋳造所が開発した素材「マルテンサイト」を使用した部品
有限会社渡辺鋳造所が開発した素材「マルテンサイト」を使用した部品

日用品から機械部品へ
有限会社渡辺鋳造所では長年培ってきた鋳物技術を応用し、機械部品の製造を主に行っています。主力商品はエレベーター関連の部品で、東京スカイツリーのエレベーターの滑車にも採用されました。
 山形県山形市が誇る『山形鋳物』の歴史は900年にも及び、昔は銅町や鍛冶町(現在の宮町周辺)、現在は鋳物町を中心に栄えてきました。経済産業省の伝統的工芸品にも指定されています。

有限会社渡辺鋳造所は、明治33年に山形市銅町に工場を構え、鉄瓶やステーキ皿などの日用品を製造してきました。4代目となる渡辺利隆社長は、一度鋳造型を作れば同じものを大量に作ることができる鋳物の特徴に着眼し、日用品の製造から機械部品の製造へ100%移行しました。
「鋳物品は鉄に近い材質で何でも作れます。今まで鉄で作っていたものを鋳物に切り替えることで、より短い時間で量産できる。これほど特徴のある製造法はありません」と渡辺社長は言います。
昭和49年に鋳物町に会社を移転。機械部品製造のための工場などを整え、現在では大手メーカーからも発注を受ける、山形を代表する鋳造所となっています。

主力商品 スカイツリーにも採用されたエレベーターの滑車
主力商品 スカイツリーにも採用されたエレベーターの滑車

鋼に迫る強度 マルテンサイト鋳鉄・鋳鋼品
有限会社渡辺鋳造所が新しく開発し、特許を取得したのが「マルテンサイト鋳鉄・鋳鋼」。お客様からの「鋼のような性質の鋳物を作れないか」というリクエストから、開発したものです。
鋼と鋳物の違いは、形の自由度にあります。
鋼は、鉄板などを削ったり溶接でつないだりして形成します。
一方、鋳物は、鉄に3%程度の炭素を加えることで水のような性質を持たせ、それを型に流し込んで固めることによってどんな形にも形成することができます。
しかし、鉄に炭素が入る分、強度が鋼に劣るのがこれまでの課題でした。そこを限りなく鋼に近付けることに成功したのが、「マルテンサイト鋳鉄・鋳鋼」です。

今、渡辺社長が提案しているのが、この新素材「マルテンサイト」で製造した「分流子」です。
「分流子」とは、ダイカスト製法(アルミやプラスチックを成型するときの製法のひとつ)に使用される部品で、材料を溶かして流し込んだ高熱の溶液を直接受け、最も熱がたまる部品です。金型に流し込む溶液は、アルミでは650度、プラスチックでは300度近くにもなります。
「分流子」は高温の溶液と接するため、作業工程上、金型を開くには冷却する必要があります。
有限会社渡部鋳造所が提案する分流子では、中にらせん状のパイプを埋め込むことにより、冷却をより早く均一に行うことを可能にしました。
分流子とは

提案を具現化する 頭脳集団(ネットワーク)の力
「新製品の開発は決して渡辺鋳造所の力だけでできたわけではありません」と渡辺社長。
「開発には高い技術はもちろん、専門的な知識も必要になってきます。そのすべてをひとつの会社で賄うには、相応の企業規模が求められますが、当社はグループ全体で40名ほどの会社であるため、不足する知識を補う必要がありました。
そこでアドバイスを求めたのが、山形県工業技術センターの研究員や、金属関係に詳しい大学の先生方です。豊富な知識を持った方々とタッグを組むことにより、『オーステナイトの組織を持つ弱磁性鋳鉄』や『マルテンサイト鋳鉄・鋳鋼』など様々な材料を開発してきました。この、サポートしてくれる頭脳集団(ネットワーク)を持つことこそが、有限会社渡辺鋳造所の特徴です。」

自ら行動を起こさないと、何も変わらない
渡辺社長の座右の銘は“自ら行動を起こさないと、何も変わらないし何もできない”ということです。
渡辺社長は、先代とは全く違う分野である機械部品製造を広げていこうと思った時、毎月東京に足を運んで、人とのつながりを作ることに奔走しました。
「人と人とのネットワークを作るには、お客様のところにたくさん顔を出して、何か困ったことがあった時に相談してもらえるような関係になるのが理想だと思います。相談してもらって、それに対して我々が提供できる材料で問題解決ができれば、実績になります。お客様との信頼関係を継続していけるのです」

現在も新素材を開発し、お客様に提案している真っ最中とのこと。鋳造品の自由度の高い性質と渡辺社長が築き上げたネットワークを生かして、鋳造品の可能性はさらに広がっていきそうです

代表取締役 渡辺利隆氏
代表取締役 渡辺利隆氏
(2020/12/8取材)

有限会社渡辺鋳造所

有限会社渡辺鋳造所
「鋳造品は無限大・ユーザーと共に考える」をポリシーに、鋳造技術で産業機械・油空圧部品・昇降機用耐摩耗鋳造品などを生産する。開発した「マルテンサイト鋳鉄・鋳鋼」では日本・韓国・米国・台湾で特許を取得。2020年に経済産業省より地域未来牽引企業に認定された。
代表者:代表取締役 渡辺利隆
創業:1900年
従業員数:40名
事業内容:鋳造品製造
所在地:山形県山形市鋳物町21番地
電話:023-643-7010
FAX:023-643-7013
URL:http://www.watana-f.com/index.html
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