
渡部 恵司(わたなべ けいじ)さん
1982年生まれ、高畠町出身。高校卒業後、地元の半導体系製造会社に就職。その後、ナショナル鍛工の前身となる会社に転職。鍛造経験を積んだ後、一度会社を離れ、設備・配管関係の仕事に就くが、令和元年、現社長より「今、彼の鍛造技術が必要だ」と求められ再び鍛造の道へ。現在は、ハンマー工員として工場の先頭に立ち、主に1.5トンのエアースタンプハンマーを操り、中型部品と医療用鋼製小物等のさまざまな鍛造品の製造を担っている。
学生時代から「自分の手で何かを作る」ということが好きだった渡部さんは、高校卒業後、地元の半導体の製造会社に就職しました。その後、自分のこれからを考えていたタイミングで先輩から声をかけられ出会ったのが、前身の「株式会社ナショナル鍛工所」でした。その先輩は先にこの会社に転職しており、「こっちへ来ないか」と誘われたのです。
初めて訪れた工場では、大きな鍛造機の音や赤く熱せられた金属をハンマーで成形する光景に驚いたものの、入社に大きな迷いはありませんでした。
最初に担当したのは、鍛造した製品の「バリ」をプレス機で取り除く工程。失敗を重ねながら経験を積む中で鍛造の技術を身につけ、ハンマー工員を任されるように。
その後、一度会社を離れ、設備・配管関係の仕事を経験しましたが、ハンマーを扱える経験者として再び声がかかり、令和元年に復帰。簡単には身につかない技術を培ってきた渡部さんは、再び鍛造の現場に立つことになりました。

※バリ…金型で金属を成形した際、金型の合わせ目からはみ出した余分な金属部分。

ナショナル鍛工は、金属を高温に加熱し、金型に入れてハンマーで叩き成形する「熱間型打(ねっかんかたうち)鍛造」を手がける会社です。中でも得意としているのが、ステンレス鋼や鉄を使った医療用鋏や理美容鋏、手術用の鉗子など、小型で精密な鍛造品。一般的な鍛造では比較的大きな材料を扱うことが多い中、ナショナル鍛工では直径8mmほどの細い丸棒から鍛造することができます。
細い材料から求められる形状をつくるためには、材料の状態を見ながら、打つ力や金型に置く位置などを細かく調整する技術が必要です。同業者が工場を訪れた際にも、その繊細さを見て「これはうちでは作れない」と驚かれることがあるといいます。設備だけでなく、それを扱う職人の技術まで含めて、ナショナル鍛工が誇る強みとなっています。
渡部さんが操るのは、圧縮空気によってハンマーを上下させる「エアースタンプハンマー」。主に1.5トンの大型機を担当しています。しかし、同じ製品だからといって、毎回まったく同じように機械を動かせばよいわけではありません。渡部さんが注意深く見ているものの一つが、加熱された金属の「色」です。現場では、材料の「赤みの色目」から適温を見極めます。温度が低ければ金属は伸びにくく、高ければ鍛造肌が粗くなるため、その違いに合わせて足元のペダルで調整します。ペダルの踏込みで変わるハンマーの力加減と、素早い作業で、正に「鉄は熱いうちに打て」の通りです。
材料を金型のどこに置くかも重要です。手前か奥か、まっすぐか少し斜めか。わずかな違いで金属の広がり方が変わります。まず「荒地」で大まかな形をつくり、その後「仕上げ」の型で必要な形状へ整えていきます。
材料の色を見る目、置く位置を見極める感覚、ハンマーを操る足加減。こうした技術にマニュアルはなく、先輩の仕事を見て、自ら操作し、経験を重ねながら身体で覚えていきます。久しぶりに扱う製品でも、金型を見ると注意するポイントが感覚として戻ってくることがあるといいます。長年の経験によって培われた感覚が、渡部さんの確かな仕事を支えています。

渡部さんが仕事をする上で何より大切にしているのが、「不良を極力出さないこと」です。
鍛造前に行う試し打ちの段階で製品の形がきちんと出るかを確認するのはもちろん、作業の中で思うような形にならなければ、材料を少し奥に置く、手前に置く、わずかに角度をつける、ハンマーの力を変えるなど、その状態に合わせて調整します。金型の中に材料を置けば自動的に同じものができるのではなく、材料の状態を見ながら条件を整えていくことが必要です。
また、材料をできるだけ無駄にしないことも大切にしています。型からはみ出す「バリ」(金型の合わせ目からはみ出した余分な金属部分)が増えれば、その分だけ材料が無駄になります。逆に材料を減らしすぎれば、必要なところまで金属が行き渡らず、製品として必要な形をつくることができません。きちんと形を出し、不良を出さず、それでいて材料を必要以上に使わない。そのバランスを見極めることも、経験によって培われた技術です。


鍛造時の打ち損じがなく、その後の検査でも不良がない。作ったものがすべて良品になったとき、渡部さんは大きな達成感を感じます。反対に不良が多ければ、「まだまだ」と自身の仕事を振り返ります。
大きなハンマーで金属を叩く鍛造は、力強さが目を引く仕事です。しかし、その仕事を支えているのは、材料の状態をよく見て、打つ力や位置を調整し、求められる品質へと仕上げていく細やかな技術です。そうした一つひとつの判断を大切にすることが、渡部さんのものづくりへのこだわりです。
ナショナル鍛工が作る医療用鋏や鉗子などは、そのまま病院などで使われる完成品ではありません。鍛造によって製品の元となる形をつくり、取引先へ出荷。その後、研磨や仕上げ加工が施され、完成品となります。そのため、完成した製品に「ナショナル鍛工」の名前が残ることはほとんどありません。
渡部さん自身も、自分が作った製品が最終的にどこへ行き、誰が使っているのかを見る機会は多くありません。それでも、自分が作ったものが完成品となり、どこかで誰かに使われ、誰かの役に立っている。そのことが、ものづくりの仕事のやりがいになっています。

そして今、ナショナル鍛工では、これまでの受注生産に加えて新しい挑戦も始まっています。会社として初めて開発した自社商品、集会用テント転倒防止金具「てんとう無シ」です。学校の運動会などで使用するテントだけではなく、アウトドアなど、さまざまな場面で使ってもらえるのではないかという期待を胸に、令和8年7月7日にリリース。米沢市への寄贈も行いました。
「自分が作ったものを誰かに使ってもらって、それが誰かのためになる」。
完成品になった姿や実際に使われている現場を見ることができなくても、自分の携わったものが社会のどこかで役立っていることが、渡部さんの喜びです。そして、「ものを作るのは、私はすごく楽しい」と話します。
「専門的な仕事だからこそ、最初からできるわけではありません。先輩の仕事を見て、自分でやってみて、失敗もしながら経験を重ねていく。その中で少しずつ、自分の技術になっていきます。ものづくりに興味がある人には、「ぜひものづくりの仕事に取り組んでもらいたいです」。
渡部さんの言葉からは、自らが長く携わってきた仕事への確かな思いが伝わってきました。


ナショナル鍛工株式会社
代表者:代表取締役 石田 聡
設立:2015年8月
従業員数:9名(2026/9/3取材時点)
事業内容:熱間型打鍛造~医療用鋼製小物、理美容鋏、吊り金具、各種鍛造品等の製造と
金型製作と金型のメンテナンス
所在地:〒992-1128 山形県米沢市八幡原2-4616-4
TEL:0238-28-8687





